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東京高等裁判所 昭和38年(う)2331号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人両名を各懲役三月に処する。

但し、被告人両名に対し本裁判確定の日から一年間右各刑の執行を猶予する。

理由

一、控訴趣意第一の一及び第二の一の1について。

論旨を要約すると、原判決は、被告人両名のなした暴行の点については、被告人赤崎が北沢巡査着用の制服の襟元を掴んで引張り、ボタン三個をもぎとつた事実を除き、公訴事実どおりの事実を認定し、かつ、被告人両名を含む本件ピケ隊がピケツトを張つた行為は、威力業務妨害罪を構成するものであることを肯定しながら、その際の客観情勢においては、ピケ隊に対し警察官が実力行使をなし得べき、警察官職務執行法第五条後段所定の要件たる人の生命若しくは身体に危険が及ぶ虞があつて急を要するというが如き事態は全く存しなかつたとし、本件警察官の実力行使は適法な職務行為と認められず、従つて北沢巡査らに対してなした被告人両名の暴行は公務執行妨害罪を構成しない旨判示したけれども、本件当時、横浜郵便局出入口には約二〇〇名の労働組合員によつてピケツトが張られ、同局管理者を含む職員の入局をあくまでも阻止しようとする態勢にあり、一方約一五〇名に及ぶ局職員が強い入局就労の意思をもつてその実現を図ろうとし、両者相接触して紛争が起きており、更に勢の赴くところ紛争が拡大する虞のある事態にあつたのであつて、まさしく正当に入局しようとする局職員またはこれを阻止しようとするピケ隊員らの身体に対し危険の及ぶ虞のある状況が生じていたことは証拠上明白であり、警察官職務執行法第五条後段の要件を具備していたことが明らかであるにも拘らず、右の要件を欠くものとして、北沢巡査らの職務行為を違法な行為と認定し、同巡査らに対する被告人らの暴行につき公務執行妨害罪の成立を否定した原判決には重大な事実の誤認及び法令の解釈適用を誤つた違法があり、それらはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないというに帰する。

よつて按ずるに、原判決が第二の一の(一)及び(二)並びに第二の二の(一)及び(二)に挙示する各証拠を綜合すると、全国逓信労働組合(以下全逓と略称する。)は、昭和三三年一月開催の中央委員会及び同年二月開催の戦術会議により、同年のいわゆる春季斗争の一環として、同年三月二〇日頃全国各地の統轄郵便局において、次いで同月二七日頃統轄局に準ずる取集郵便局において、それぞれ勤務時間内二時間喰い込みの職場大会を開催する斗争方針を決定し、全逓横浜郵便局支部(支部長小原博)に対しても同年三月一七日全逓神奈川地区本部を経由し、斗争指令第三七号をもつて、三月二〇日午前八時三〇分より同一〇時三〇分まで二時間の勤務時間内喰い込み職場大会の開催を指令したところ、同支部は右職場大会の開催を拒否し、同指令を返上すると共に同支部執行委員は総辞職をしたこと、そこで前記地区本部は右事態に対処し、同地区本部の責任において右斗争指令を実施するため、横浜郵便局内に、右地区本部執行委員らで構成する臨時斗争指導部を設け、あくまで前記三月二〇日の勤務時間内二時間喰い込み職場大会の開催を企図し、同支部にこれを指令すると共に、神奈川県地方労働組合評議会に対し、当日横浜郵便局員の就労を阻止するためのピケツト要員の動員方を要請したこと、他方、以上のような情勢を知つた横浜郵便局管理者側においては、局員の就労を図り業務の正常な運行を確保するため、出来る限り多数の職員を掌握し、ピケ隊との摩擦を避けつつ入局させる方針を樹てると共に、ピケ隊によつて入局が阻止されることを慮り、同月一九日同局長寺田清吉名義をもつて、予め所轄加賀町警察署及び神奈川県警察本部警備部長宛に警察官の出動を要請し、当日ピケ隊により局職員の入局が阻止された場合には、右郵便局の業務の運営を確保するため、これを排除してほしい旨依頼したこと、右三月二〇日午前七時前後頃には前記地方労働組合評議会の動員したピケツト要員一〇〇名前後が右郵便局職員通用門及び他の二つの出入口にピケツトを張り、八時頃にはその数二〇〇名位に達し、局職員の入局を阻止していたこと、警察官側は同日午前七時頃郵便局付近の神奈川県庁中庭に一個小隊(約三五名)が待機していたが、午前八時四〇分頃更に三個小隊の警察官と警察広報車一台が出動し、現場においてピケ隊と対峙すると共にピケ隊に対し拡声機を通じ、数次にわたり、出勤する職員をピケツトで妨害することは威力業務妨害罪になるからピケツトを解くよう要求し、拒否すれば実力行使に移る旨警告したがピケ隊はこれに応ぜず、同日午前九時一〇分頃管理者側からの度々の要請もあり、ついに深川警備本部長は現地指揮者古川機動隊長に実力行使を命じ、同二〇分頃同隊長は隊員に実力行使の命令を下すに至り、かくて警察官により順次ピケ隊員の引抜きが行われ、約二〇分間にしてピケ隊が排除せられたこと及び右の際ピケ隊のうちにあつた被告人赤崎(当時神奈川県地方労働組合評議会事務局員)が同被告人を引き抜こうとした機動隊員巡査北沢操に対し、そのネクタイを引張つて首を絞め、更に同人の左下腿部を蹴りあげる等の暴行にいで、また同じくピケ隊のうちにあつた被告人高野(当時日本鋼管川崎製鉄所労働組合員)が同様ピケ隊の排除をなしつつあつた巡査周藤美雄に対し、同人の左下腹部及び左大腿部を足蹴にする等の暴行を加えた事実を肯認するに十分である。所論は、右のように警察官がピケ隊に対し、実力行使に及んだ際は、ピケ隊と入局就労しようとする局職員との間に紛争が起き、局職員またはこれを阻止しようとするピケ隊員らの身体に対し危険が及ぶ虞れがあつて急を要する状態にあつた旨主張する。しかし、原審において取調べたすべての証拠を仔細に検討しても、警察官が前叙実力行使に及んだ当時の状況としては、それまでにピケ隊と入局しようとする局職員との間に二、三の小ぜり合いはあつたものの、未だ所論のようにピケ隊との紛争により入局就労しようとする職員またはこれを阻止しようとするピケ隊員らの身体に対し危険の及ぶ虞がある状態にあつたものとは認め難いこと原判決の説示するとおりであつて、当審における事実取調べの結果を加えても未だ右認定を動かし得ない。従つて原判決には所論のような事実の誤認はなく、また所論のような法令の解釈適用を誤つた違法もない。論旨は理由がない。

二、控訴趣意第一の二について。

論旨は、原判決は、被告人赤崎の北沢巡査に対する暴行の訴因事実中、同被告人が同巡査着用の制服の襟元を掴んで引張り、ボタン三個をもぎ取つたとの点については、証明が十分でないと判示したが、右事実は原判決挙示の証拠により優に肯認し得るのであるから、これを否定した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというに帰する。

しかし、原審において取調べた証拠に当審における事実取調べの結果をも加えて考量してみても、未だ所論の事実を肯認するに十分でない。さればこの点に関する原判決の認定は正当であつて事実誤認の違法はない。論旨は理由がない。

三、控訴趣意第二の一の2について。

論旨は、原判決は、警察官職務執行法第五条後段にいう「財産に重大な損害を受ける虞があつて急を要する場合」について、制止されるべき行為と発生すべき財産上の損害との間に直接の結びつきが必要であり、しかもその財産は必ずしも有形的財産とは限定されないまでも、制止さるべき行為によつて直接損害を受け得る財産として、極めて具体的な経済的利益を指すものと解すべきであつて、本来人格的活動の自由を保護客体とする威力業務妨害罪は、右の直接性の要件を充たし得ないから右制止行為の対象とならないとし、「本件ピケによつて郵便業務が妨害され、国民の財産に損害を及ぼすとするような遠く且つ漠たる要件で本条後段の制止が許される筈のないこと今更いうまでもないところである」と説示する。しかし、威力業務妨害罪の保護客体は決して単なる自由権ではなく、人の業務、そのうちでも主として経済的活動であると解するのが相当である。従つて威力によつて人の経済的活動を妨害する場合は、当然その犯罪行為によつて財産上の損害を与えることは明らかである。しかして、郵便業務が国民の経済と国民の福祉に重要な関係を持つものであることは今更多言を要しないところであり、従つてその業務を妨害することにより、本件においては書留速達便を含む速達一号便の出局が一時間四〇分遅れ、その他郵便貯金の受け払い業務、郵便為替取扱業務、現金書留取扱業務等の業務乃至その準備行為がピケツトの解除されるまで停止され、国の経済に重大な損害を及ぼすとともに、これを利用する国民にも財産上重大な損害を与える虞を生ぜしめていたことが明白である。また右の事態が放置されれば益々その損害が増大し、早急にこれを防止すべき状況にあつたことも明らかである。然るにこれを本条後段に規定する制止の対象とならずとして本件警察官の行為を違法な職務行為と解した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈適用を誤つた違法があり、破棄を免れないというのである。

よつて先ず、威力業務妨害罪は警察官職務執行法第五条後段に規定する制止行為の対象となり得ないかどうかについて考えると、原判決は、同罪は本来人格的活動の自由を保護客体とするものであるから、同条の要件を充たし得ないという。しかし、刑法第二三四条の規定する威力業務妨害罪の保護客体を右のように単に人格的活動の自由のみと解することは、同罪の持つ経済的意義を看過するものであつて当裁判所のたやすく同調し得ないところである。けだし同罪による保護の対象たる業務は、経済的業務に限らるべきものでないことはいうまでもないけれども、人の経済的活動がその重要な部分を占めるものであることも疑う余地のないところであつて、かかる人の業務たる経済的活動を妨害すれば、これにより財産上の損害、しかも原判決のいう直接的な損害をも与えることのあり得ることは勿論であるからである。従つて威力業務妨害罪は警察官職務執行法第五条後段の制止行為の対象となり得ないとする原判決の見解にはにわかに左袒し難い。次に、原判決は、同法第五条にいう財産上の損害は、制止さるべき行為により直接損害を受ける具体的な経済的利益でなければならないというが、必ずしもしかく狭く解さなければならないものではない。むしろ、まさに行われようとする犯罪により、人の財産に重大な損害が及ぶ虞があれば、その損害が直接的であれ間接的であれ、同条の制止行為による保護の対象となるものと解するのが相当である。けだし、犯罪がまさに行われようとし、それによつて重大な財産上の損害が発生する虞があるにも拘らず、その損害が直接的でないからとの理由のみにより、警察官においてこれを制止することができないとすることは、犯罪予防の責務を持つ警察官の職務(警察法第二条)にかんがみ到底首肯し得ないところである。しかして、警察官職務執行法第五条は、犯罪予防の名の下に実力行使が濫用され、不当に人権が侵害されることを慮り、これを防止するため、そのとり得る手段や要件を定め、もつて人権を保障しようとしたものと解されるが、以上のように解することによつて、何ら人権の保障をそこなうものとは考えられない。然るところ、国の経営する郵便事業は、まさに論旨のいうとおり、郵便の役務を国民に提供し、公共の福祉を増進することを目的とするものであつて(郵便法第一条)、国家の経済と国民の福祉にとつて極めて重要な公共的企業であることはいうまでもなく(公共企業体等労働関係法第一条、第二条)、その事業の運営は一時もゆるがせになし得ないものであるが故に一般の企業の場合と異なり同法第一七条第一項により、右業務に従事する職員及びその組合は、業務の正常な運営を阻害する一切の争議行為を禁止されているのである。従つて右郵便業務が妨害され、その運営が一時たりとも停止することは、国家及び国民の経済に重大な損害を及ぼす虞のあるものであることはこれまた贅言を待つまでもないところである。さればこそ、郵便の業務に従事する者がことさら郵便の取扱をせずまたはこれを遅延せしめた場合を重視し、かかる行為を犯罪として特に郵便法第七九条第一項において規定しているのであつて、その違反者に対し厳重な処罰をもつて臨むゆえんもまたここにあるものといわなければならない。本件についてこれを見るに、前述のような本件ピケ隊による業務の妨害により、横浜郵便局における書留速達を含む速達一号便の出局が約一時間一五分遅れ、また郵便貯金、郵便為替、郵便振替貯金、簡易生命保険、郵便年金、現金書留取扱等の各業務その他一切の郵便業務及びその準備行為が停止されるという状況にあつたものであつて、よしんばそれが前記指令どおり同日午前一〇時三〇分頃解除される予定であつたとしても、かかる事態は、横浜郵便局の規模にかんがみ、国の経済に極めて重大な損害を及ぼすと共に直接これを利用する国民にも財産上重大の損害を与える虞のある状態にあるといい得るのであつて、またその事態が継続すればその損害も更に増大することはいうまでもないことであるから、早急にこれを防止する必要のあることも明らかである。従つて、以上のような事態は警察官職務執行法第五条後段にいう「財産に重大な損害を受ける虞があつて急を要する場合」に当るものと解するのを相当とする。然るにこれと異る見解に立つて、前示北沢巡査らのピケ隊引き抜き行為を、同条の制止行為としてその要件を充たさないから違法な職務行為であると解し、同巡査らに対する被告人の暴行を罪とならずとした原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。

しかのみならず、全逓のような国が経営する公共企業体の職員で組織される労働組合は、前述のとおり公共企業体等労働関係法の適用を受け、同法第一七条第一項により争議行為が禁止されているのであるから、本件争議行為、従つてその手段たるピケツテイングが一般の企業の場合と異りそれ自体違法な行為であることはいうをまたないところであり、しかも被告人両名を含む本件のピケ隊員はいずれも全逓横浜郵便局支部以外の労働組合の組合員であつて、同郵便局の三個の出入口にピケツトを張り、多数の勢力によつて約一五〇名の同局職員の入局を阻止してその業務に就かせず、国の郵便業務を妨害し、その状態が前示警察官の実力行使の時にまで及んだのであるから、被告人らを含むピケ隊の所為は威力業務妨害罪を構成し、かつ、そのピケツトが排除されるまでその違法状態が継続していたことが明らかである(なお、公共企業体等労働関係法第一七条違反の争議につき刑事責任の免除について規定した労働組合法第一条第二項の適用のないことは、既に最高裁判所の判例(昭和三八年三月一五日第二小法廷判決、判例集第一七巻第二号二三頁参照)の示すところである。)。して見ると、本件争議に際し警察官がそのピケ隊員を威力業務妨害罪の現行犯として逮捕し得たものであることは明白であつて原判決もその旨説示しているのである。凡そ警察官は、現に犯罪が行われている場合は、逮捕状なくして直ちにその犯人を逮捕し得るのであるが(刑事訴訟法第二一二条、第二一三条)、かかる場合の現行犯人の逮捕は、犯人の検挙と同時にこれによつて現に行われている犯罪鎮圧の機能をも併せ持つものであることはいうまでもないところ、現に犯罪の行われている場合であつても、その犯罪の性質、態様、四囲の状況等にかんがみ特に犯人として直ちにこれを逮捕し、身柄を確保するまでの要はなく、単にその犯行を制止することによつてその犯罪鎮圧の目的を遂げ、公共の安全と秩序を維持するに十分である場合には、右鎮圧に必要な制止行為のみをなし得るものと解しても格別支障はないものと思料される。けだし、警察官は、犯罪の予防、被疑者の逮捕等のほか犯罪の鎮圧もその責務とされている(警察法第二条)のみならず、現に犯罪が行われている場合、その犯人に対して発動することの許容されている強制力の行使を、当該犯罪鎮圧のために必要な限度に止めて行使することは、当然法の許容するところと解し得られるからである(現行犯であつても刑事訴訟法第二一七条に規定する軽微な犯罪にあつては、住居若しくは氏名が明らかでない場合等でなければ逮捕することを得ないのであるが、かかる場合においても、警察官は犯罪鎮圧のための制止行為はこれなし得、またなすべき責務があるというべきである。)。しかして、本件における警察官のピケ隊に対する実力行使は、原判決の説示するとおり、これによつて現に発生継続しているピケツテイングによる威力業務妨害行為の鎮圧排除にあることは明らかであり、従つてその一環としてなされた前述北沢巡査及び周藤巡査のピケ隊員引き抜きの行為は、現行犯たる威力業務妨害行為に対する鎮圧行為として適法な職務行為たることが明らかであつて、右両巡査に対しそれぞれ前叙の如き暴行を加え、その職務の執行を妨害した被告人両名の所為はかかる観点からしても公務執行妨害罪を構成するものというべきである。然るに右北沢巡査らのピケ隊排除行為を警察官職務執行法第五条による適法な職務行為に当らないとの理由のみにより(原審における検察官の主張は、必ずしも明確ではないが、要するに本件警察官の実力行使は、同条の制止行為たると同時に現に行われつつある威力業務妨害罪の鎮圧としてなされたものでもあることを主張したものと解されるが、原判決はこの点に対する判断を明示していない。)、不適法な行為として従つてこれに対しては公務執行妨害罪の成立する余地なしとして被告人両名を無罪とした原判決にはこの点においても法令の解釈適用を誤つた違法があり、これらの誤りはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れない。従つて右の点について論旨は理由がある。

以上説明のとおりであるから、爾余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により次のとおり自判する。

(罪となるべき事実)

被告人赤崎末人は、神奈川県地方労働組合評議会事務局員、被告人高野保太郎は日本鋼管川崎製鉄所労働組合員であつた者であるが、全国逓信労働組合(以下全逓と略称する)は、昭和三三年三月一七日春季斗争の一環として、全逓神奈川地区本部を経由し全逓横浜郵便局支部に対し、同月二〇日午前八時三〇分からの勤務時間内二時間喰い込み職場大会の開催を指令したところ、同郵便局支部(支部長小原博)は、右職場大会の開催を拒否し、同指令を返上すると共に同支部執行委員は総辞職したので、前記地区本部は右事態に対処し、横浜郵便局内に右地区本部執行委員らで構成する臨時斗争指導部を設け、あくまで右職場大会の開催を企図し、同支部にこれを指令すると共に前記神奈川県地方労働組合評議会に対し、当日右郵便局員の就労を阻止するためのピケツト要員の動員方を要請し、かくして同年三月二〇日午前八時頃には既に、被告人両名を含む同地評傘下の各労働組合員約二〇〇名が、横浜市中区日本大通五番地横浜郵便局通用門前道路上においてピケツトを張り、同局職員等の出勤就労を不法に阻止し、同郵便局の義務を妨害するに至つたので、同郵便局長寺田清吉の要請により出動していた神奈川県警察本部警備部機動隊約一〇〇名は、被告人らピケ隊員が、警察側の数次にわたるピケツトを解除すべき旨の警告を無視して応ぜず、右通用門付近において座込みを開始するに至つたところから、同日午前九時二〇分頃よりついに実力をもつて右違法なピケツトを排除しようとした際

第一、被告人赤崎は同日午前九時三〇分頃、同所においてピケ隊の引き抜きを始めた同機動隊員巡査北沢操に対し、同人のネクタイを引張つて首を絞め、更に同人の左下腿部を蹴り上げる等の暴行をなし

第二、被告人高野保太郎は同日午前九時二五分頃、同所においてピケ隊員の引抜きを始めた同機動隊員巡査周藤美雄に対し、同人の左下復部及び左大腿部を足蹴にする等の暴行をなし

もつて、それぞれ右両警察官の職務の執行を妨害したものである。

(証拠の標目) <省略>

(法令の適用)

被告人両名の判示所為はそれぞれ刑法第九五条第一項に該当するのでいずれも所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内において、被告人両名を各懲役三月に処し、諸般の情状にかんがみ被告人両名に対し同法第二五条第一項を適用し、それぞれ本裁判確定の日より一年間右刑の執行を猶予することとし、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書により全部被告人両名に負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。(松本勝夫 海部安昌 石渡吉夫)

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